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話題のつくり手へのインタビューやENUに関する情報を発信
つくり手
日々変わり続ける社会のなかで、人々の興味関心や消費行動もどんどん変わっています。次々に新しいものが生まれてきたり、これまで売れていたものが売れなくなったり。つくり手のみなさんも、試行錯誤を続けている方が多いのではないのでしょうか。
そのような動きは、京都のものづくりの現場でも。西陣にあるフクオカ機業の代表、そして伝統工芸士でもある福岡裕典さんは、6年の歳月をかけてペットボトルを織物に再生する技術を生み出しました。今回は「つくり手座談会」と称して、福岡さんと、ペットボトル再生生地で実際にものづくりをした職人のお二方にお話を伺いました。
––––本日はご参加ありがとうございます。最初に、みなさまの自己紹介を簡単にお願いいたします。
福岡裕典さん(以下、福岡):フクオカ機業の福岡です。この度、ペットボトル再生繊維を開発し、京都のつくり手さんにお声がけしてコラボレーション作品を作らせていただきました。今回の座談会に参加しているお二方も、コラボレーションを快くお引き受けくださった方々です。
三上良弘さん(以下、三上):株式会社ネーカーズの三上良弘と申します。弊社はボールペンと靴の製造・販売をしております。今回はペットボトル再生生地で、ボールペンと万年筆、スリッパ、靴を作らせていただきました。
福岡:初めは「靴を作れませんか?」と依頼したんですよね。
三上:そうでしたね。実際に生地を拝見して、これならスリッパやボールペンもできますよ、とお話ししました。
長艸真吾(以下、長艸):株式会社長艸繡巧房の長艸真吾と申します。『京繍(きょうぬい)』という伝統工芸の刺繍をしており、文化財の新調や修復、能衣装、ドレス、芸術作品の製作をしております。フクオカ機業さんのペットボトル再生生地と京繍をどう合わせようかということで、今回は和装に近いドレスのような形で出品させていただきました。
福岡:たしか最初は、宮中の方が着ている作務衣のようなものに刺繍してほしいとお願いしたんでしたね。
長艸:作業着に刺繍するのはもったいないので、実際に舞台に立たれている方の衣装を想定し、海外の展示会などでも出店できるようなものを作らせていただきました。普段の依頼はオートクチュールがほとんどで、誰かが何かをするシチュエーションを想像して作ることが多いので、今回もそのように。
福岡:長艸さんには、かなり初期の段階から生地を見ていただいていました。
長艸:そうですね。正直、当時は発色があまり良くない印象があったんですが、試作を繰り返すうちにどんどん発色が良くなっていくのを感じていました。
福岡:ありがとうございます。三上さんにお見せできたのは、かなり完成に近くなってからでしたか。
三上:はい、これまで西陣織はけっこう見てきたけれど、他にはない雰囲気があったように思います。ペットボトルから作られた糸の特性なのか、ふんわりとした立体感を感じましたね。
福岡:実際にペットボトル再生生地を使ってみて、どのような印象でしたか。
三上:きっちり織られているけれど、繊維の特性として少しバラけやすい印象がありました。靴を作るときは生地をひっぱって作りますが、何度か試作しているうちにうまく木型に沿わないことがわかったんです。靴の強度に持っていくまで裏打ちをしたり、当たるところにスポンジを入れて力を逃がす型紙を起こして、立体裁断のような形で沿わせたらうまくいきました。他の素材と違った独特の感覚がありましたね。
長艸:いつも刺繍を施しているシルクに比べて、今回の生地は分厚くて硬いイメージ。触るとやわらかいんですけどね。針を直接刺すのは難しい印象だったので、今回は他の生地に刺繍を刺してアップリケのようにして縫い付ける形を取りました。京繍で使う糸は、シルクか金糸、または麻の系と決められています。今回はその枠を超えることはしませんでしたが、糸も同じ再生繊維で刺繍できたら合うんじゃないかなとは思います。
––––逆に、この生地を使ってみて、おもしろかった部分があれば教えてください。
長艸:完成してみたら、意外と映えるなっていうのは結構びっくりしてて。ペットボトルからできていると言わなければ誰も気づかないんじゃないか、というレベルには達している印象でしたね。今回は刺繍だけでなく仕立てもさせていただいて、意外と仕立てやすいとも感じました。シルクだとどうしても気をつけなあかんところが気をつけなくてもいいところがあって便利でした。
三上:僕は生地の使用感の話ではないんですけど、お客さんの反応がよかったですよね。「ペットボトルからどうやって作ってるんですか?」と、興味を持っている方が多かったのが印象的でした。
福岡:いやあ、数年前までは誰にも興味を持ってもらえなかったんですよ。「こんなものを作っていて……」とお話ししてもあまり反応がなくて。最近は、SDGsなど社会の流れから興味を持つ企業も多く、商談につながっていますね。
長艸:表現のひとつとして、夏帯のように透けるものってどうなんでしょう。防火的な検証は必要ですけど、ランプシェードなどの照明にも使えるんじゃないかと。
福岡:製品化できるなら、ぜひやりたいですね。ただ、「紗(夏物に使用される通気性のよい織物の種類)」は柔らかくなりすぎて、張り感がでないと思います。
長艸:それなら、例えば枠にピタっと張ればいけそうですよね。
福岡:ああ、たしかに。薄くすること自体はできると思います。
三上:薄くなると加工しやすくて嬉しいですね。あと、靴を作るときにカラーバリエーションが気になっていました。
福岡:この生地は染色もできるので、お好みの色に染められます。染めの段階まで、すべて西陣内で完結できるようにしているところです。
––––こういったコラボレーションが生まれていくのは素敵ですね。普段は別々のものを作っているつくり手同士でのコラボレーションで、新しい発見などはありましたか?
三上:僕は靴職人をやりながらボールペンも作っているんですけど、木工、三味線、エアブラシ、家具職人さんなど、いろいろな方とコラボレーションしています。お互いの業界のことはわからなくても、やりたいことがちゃんと伝わってくるのが楽しいです。ただ、誰かと一緒に形にするのは、上手に靴を作るのとは別の技術が必要だと毎回感じていますね。
––––別の技術、というと?
自分のなかにある「いい靴」のイメージが、コラボレーションする場合は取り払われるんです。この素材を使ってなんとか形にしなければ、という全然違うベクトルでものづくりをすることで、これまでにはなかった技術が身につけられたな、と思いました。正解があるわけではないので、素材を生かせる感覚を培っていくのがコラボレーションの技術なのかな、と。
長艸:僕は刺繍屋なので、誰かの作品に最終的な加工を施すという意味では毎回コラボレーションしているようなもの。ブランドや商品によってはときどき特殊な素材や形の依頼がくるので、今回のペットボトル再生繊維もそうですけど、それに対して新しい方法を模索するという意味では、技術が蓄積される面があるかなとは思いますね。
––––ペットボトル再生がひとつのテーマになっている今回のプロジェクトですが、サステナブルやSDGsといった側面は、どのようにお考えですか?
三上:僕はまったく考えたことがなかったんです。でも、今回のプロジェクトに関わらせていただいて、販売時に「ペットボトルを再生している」と言っている以上、自身のゴミの分別などにも気をつかうようになりました。
長艸:正直、サステナブルやSDGsという言葉は、それさえついていれば良しとされることも多いと感じているので苦手です。より良いものが評価されて売れることが、本質だと思っています。僕が作っている着物に関しては、3代続けて着てもらうことを意識しているんですね。消費するものではなく資産になるものを作って、長く使い続けるという意識の上に成り立っています。
福岡:それはすごくわかります。とはいえ、和装関係の需要がものすごく減っていて売り先がない。新しいものづくりを考えていかないと技術も廃れてしまいます。今は社会の流れもありペットボトル廃材が非常に問題になっているなかで、観光客が多い京都は特に再利用に前向きです。課題となっているものを糸にして、京都らしい新たな織物になれば、それはひとつのやり方でもあると考えています。これから、京都市内のペットボトルを集めて生地にしていくプロジェクトも進行中です。
長艸:もしペットボトルがなくなったらどうするんですか?
福岡:それはまた新たな課題ですよね。廃材がなくなるという意味では、いいことではあるんですけど。今は、ペットボトルだけでなく再生繊維と言われるものが結構出てきているので、他のもので何かできたらいいかな。お米のカスで作ったものや、漁網を糸に再利用しているものもありますね。
三上:「伝統は革新の連続」と言われているとおり、今回のプロジェクトでは新しい生地が西陣織で生まれた感覚がありました。今回をスタートに、形を変えながらも広まっていけば、それが結果的に京都のものづくりを守ることにもつながりますよね。
福岡:そうですね。伝統技術を守るためにも仕事を作らないといけないし、いろいろな素材にトライすることで職人さんの技術力の向上にもつながると考えています。新しい西陣織のものづくりをすることによって、従来のものづくりをしっかりと残しておくと言う形を取っています。
長艸:まずはさまざまなものに加工してみて、使い心地を試していけたらいいですね。ただ、福岡さんの売りはこれまで培ってきた熟練の技術だと思うので、素材がすごいという話ではないと僕は考えているんです。有職織物を織ってきた職人が、ペットボトルも含めたあらゆる素材でも織れる、というのを押し出して世の中に認められてほしい。
福岡:ありがとうございます。おっしゃるとおり、技術の継承が、どこにも織れない素材のものづくりをする私の本来の目的でもあります。これまでやってきた有職織物、特に装束などはしっかりと残していきたい。ただ、残念なことにそういった仕事がなかなかないんですよね……。他の素材で需要があるのなら、そちらで収益と技術力を上げることが結果的に装束を残しておくことにつながると思っています。
長艸:本質的なものや技術を残していきたいというのは、僕たちも同じ思いです。
福岡:今回のペットボトル再生繊維がひとつのきっかけとなって、新しい西陣を作っていきたいという思いがあります。お二方を始め、多くの職人さんがこの生地をきっかけに、その輪のなかに一緒に入っていただけたら嬉しいですね。
企画・編集:70seeds
取材・執筆:ウィルソン麻菜
・プロセスを追いかけましょう!
ペットボトルの再生は、社会課題への取り組みであると同時に、つくり手さんたちにとっても現状打破の糸口でもあったことが伝わってきた今回の座談会。新しい生地が、今後どのように社会に広がっていくのか、活動の様子は、福岡さんのストーリーから随時発信予定ですので、ぜひフォローして、プロセスを追いかけてみてください。
フクオカ機業 福岡裕典さんのプロフィールはこちら。
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